合衆国ニッポン。以前、エリア11と呼ばれたその地は、今新たに日本という名を
取り戻し、人種問わず平等な国へと生まれ変わった。

もちろん、今でもブリタニア人と日本人の間での諍いが無くなった訳ではなく
それを出来る限り静めているのは日本を取り戻すため最前線で闘い、今は
合衆国ニッポンを統治している【黒の騎士団】である。


機械的な音をたてながら開く扉。
そこから若干、苛立った様子で入ってきたのはカレンをはじめとした、騎士団の幹部。


「おかえりなさい、カレンさん、皆さん。お兄様の様子は…。
……どうか、なさったのですか?」
「あ、ああ……ただいま ナナリーちゃん。
ルルーシュは…元気よ。傷も良くなってきてるし、もうすぐ退院できるかもって
先生も言っていたわ。」
「そうですか…。安心しました。」


カレンの言葉にナナリーは折り紙を折っていた手を止め、ほっと安堵の表情を浮かべた。


「……。だったらなんでそんなに機嫌悪そうなんだ、お前達は。」


ルルーシュの体調がよく、もうすぐ退院できそうだというのなら
もう少し嬉しそうな顔をしていてもいいはずなのに、
今彼女らの表情にあるのは明らかな苛立ち。

それにはナナリーも気付いているだろう。

けれども、それに関して言葉を発したのはC.C.だった。


「なんで、って…。 だって!」



【存在理由】





枢木スザクが初めてルルーシュの見舞いに来てから数週間。

ルルーシュの方も体調は随分良くなり、もうすぐ退院できそうなぐらいに回復していた。


スザクが来たあの日のルルーシュの怯えた表情。
当然の反応だった。

銃で撃たれた傷はともかく、存在を否定するような言葉を言われたのだ。
かつて親友と信じた者に。

あれを見た瞬間から、あの場にいた者は皆、ルルーシュに彼を会わせることは避けたかった。
 
もう、あんな表情は見たくなかった。


だというのに。


今日また、彼はやってきた。

あの日と同じくささやかな花束を片手に。

ただし今回、前と違うのはルルーシュが冷静であったこと。


おそらく、初めて見舞いに来た日から見舞いに来た幹部達が帰った後に
1人で色々と考えていたのだろう。彼のことを。


『…来ると思っていたよ、スザク。』
『……。ルルーシュ…。』


なんと言えばいいのか。

「ごめん」。そんな言葉じゃ足りない。なにかが違う。

スザクが迷っていた、その時。


『何を迷っている? お前の行動は当然の結果だろう。
変えようのない真実なんだよ。 俺がユーフェミアを…ユフィを殺人者にしてしまったことも、
彼女を手にかけたことも。全部俺がやったんだ。
だからお前が俺を憎んでも、それは当然の結果なんだよ。』


彼の今の表情。
前にも、見たことがある。

昔、彼はその表情をこう言っていた。
“自嘲”というのだ、と。

どこか哀しい。どこか優しい。どこか穏やかな微笑み。


『…でも、俺は君に…すごく、酷いことを……。
君が傷つくと知っていたのに、無意識とはいえあんな事を…。
謝って許されるなんて思ってない。けど…けど、ごめん。』
『俺も知っていたんだ。お前にとってユフィがどれだけ大切だったか。
それでもやった。お前の主君を蹂躙し、殺めて、奪った。
……だからな、スザク。俺が母さんを奪われブリタニアを憎んだように
『っ!?』


そこにあったのは、誰も入る隙のない2人の世界。

以前はスザクを止めた藤堂も、スザクに怒鳴ったカレンも今は、何も言えない。

ただただ 見守ることしかできない。


『お前にとってユフィは生きるための理由だったはずだ。
それを奪ったのは俺。死にたいと望んでいたお前から“死”を奪ったのも俺。
なら…お前は、俺を憎めばいい。それがお前の理由になるなら。憎めば、いい。』
『そんな、こと…ッ』

『それでも…それでも俺は、お前に生きていて欲しいんだよ。』


それから、スザクは何を言っていいのか分からなくなった。

『また来るよ。』とだけ言い残して花束をルルーシュに渡して彼は、帰って行った。

その背中を見送るルルーシュの顔は とても優しいものだった。


+++


「あいつだってすっごくむかつくけど それより今はルルーシュよ!!
なんであんなこと…ッ」
「まったく…あいつらしいな。」


辛そうに言うカレンの言葉に耳を傾けながらC.C.はふっと笑って呟いた。


「オレンジ事件の時も キュウシュウの時も…そして今でさえも…。
あいつは敵に対してまで優しすぎる…。」
「でも、そこがお兄様のいいところ、なんですよね。
さすがに甘すぎる気もしますが…。」
「自分が傷ついてまでスザクに生きて欲しいなんて。
いつもいつも自分だけが傷つく道を選んで…。
それなのにあいつは、ルルーシュに何も返してはくれないのに…。」
「まあ…でも 今回のことでさすがの枢木も気付くだろうさ。
ルルーシュの想いにも少しは、な。」



[end]





[2015.09.27 加筆修正]
今続きを書いたら、多分枢木さんはルルーシュに憎しみを吐きながら
愛しくて独占したくてたまらないという滅茶苦茶な行動に出ると思います。
しかしこの頃描く人物は青いですね、ルルーシュもスザクも。
何これフレッシュ……。若さ……。