指の先に見えるのは きょとんとした翡翠の瞳と
特徴的な,子犬のようにはねた 茶色い髪。

きっと自分が先ほど放った一言の衝撃だろう。

そう。

俺こと自称ルルーシュの1番の悪友、リヴァル・カルデモンドは
目の前の少年に宣戦布告した。



【好敵手に告ぐ】




それは夕日で朱く染まった生徒会室での事。


今日はリヴァルとスザクの二人しかいない。

会長であるミレイはお見合い、
麗しの副会長は妹のナナリーが熱を出して寝込んだというのでその看病、
シャーリーは水泳部の大会が近いので練習に出ているし、
ニーナは実験に必要なモノを買い出しに行くとかで居ない。
カレンは病院の定期検診だとかで休み。
正確には二人きりではなく猫のアーサーが居るのだが彼はカウント外。


話しながらも手だけはしっかり動かして、仕事を片付ける。

あの有能で秀麗な副会長が居ればこんな仕事、日が暮れる前に終わっていただろうに、と
胸の内で愚痴りながらもリヴァルは手を動かす。


ふと、今日は軍務が休みだと言うことでここにいるスザクの方へ目を向ける。
いつもは軍の仕事が忙しいから、となかなか来られない彼だが今日は来られたらしい。


彼は、ただただ手を動かしている。
こちらには目もくれない。


「……なぁ。スザクはさぁ…ルルーシュのこと、どう思ってんの?」


いつもの軽い調子で思ったことをそのまま口にしてみる。


前々から気になっては居たのだ。

スザクがこの学校に転入してきたばかりの頃、
今生徒会室の机の上でのんきに欠伸を零しているアーサーが一騒動起こしたのだが…
否アーサーが、というのはどこか正しくない。正しくは会長が、だ。

生徒会役員のキスを賞品にして、アーサーを捕まえさせようとした猫騒動。
理由はこの猫がルルーシュの秘密のなにかを持ち去ったからだそうだ。

見たかったな、と思っている自分が居るのは否定しない。
けどそれは誰にも話さない秘密だ。

ルルーシュに言ったりしたらまずこの世の地獄へLet’s Go☆だ。(お一人様で)

話を戻してあの時猫を捕まえたのはスザクだった。
並外れた運動神経であの長ったらしい階段を駆け上って、
滑り落ちそうな屋根をするするのぼっていった。

滑り落ちそうな…というよりも、実際滑り落ちそうになったのだ。ルルーシュが。
その時、ルルーシュを助けたのもスザクだった。

リヴァルの居た位置からではルルーシュの表情は伺えなかったが
きっとかなり安堵していたのだろう。
肩の力が抜けているのが見えた。

普段の彼は、笑っていてもどこか一線引いているようで、本当に安心した顔というのは
見たことはない。

だけれど、あの時スザクに見せた表情は普段に比べて随分安心したモノだったはず。


それ以前にあの時のスザクの異常なまでの緊張感。
そして猫を追いかけているときの必死な様子。

それはスザクの性格から来ているモノもあるのだろうが、それだけだとは思えない。

ルルーシュが副会長であるというのは有名だし、いくら転入してきたばかりとはいえ
スザクも知っていたはずだ。
ひょっとしたら、という可能性が脳裏をかすめる。


だからこそ聞くのだ。
「ルルーシュのことを どう思っているのか」と。


そして今に至る。


彼はさっきまで書類にだけ向けていた視線をこちらに向け、きょとんとした瞳をしている。
その顔には明らかな驚きがある。

会長の性格が少し伝染ったのだろうか、こういう表情を見ると楽しい。


「……え?」
「だからさ,スザクは ルルーシュのことどう思ってんの?
あ、印象とかそういうのじゃなくてどんな感情持ってるかっていう方だから。」
「ルルーシュ…? 好きだよ?」
「じゃあ、その“好き”は友だちとして? それとも…」
「え、ちょっと待ってよ。リヴァルなんか今日変だよ?」
「変じゃなーい。いつもと変わんないぜ?俺は。
いつも通り、思ったまんま口にして思ったまんま聞いてんの。」
「……でも、ルルーシュは友だちで、それ以上の好きは…」


ああ、この顔は。
嘘、ついてるな。というよりも、目が泳いでる。

こいつの笑顔は確かに人当たりいいけどどこか嘘くさい。

いつもはもう少し上手に嘘ついてんのに今日は嘘だって丸わかり。
それほどに動揺してんのかな? じゃあやっぱり。


「スザクって案外わかりやすいのな。
その顔、明らかに意識してるって。」
「そんな事、」
「ないなんて言うんじゃないぞ? 俺には分かっちゃうだからな?」
「……好き、だよ。友だちとしてじゃなく。」


やっと認めた。

よし、言おう。
今こそ言おう。

思ったままに、いつも通りに、明るく!


「じゃあ俺は、枢木スザクに宣戦布告します!!
俺もルルーシュのこと好きだから。
ルルーシュの “1番の悪友”の座は俺のモノ、あいつの隣も俺がいただいちゃう!」
「……え?」


さっきよりもきょとんとした翡翠。
うーん、気分良いねぇ。


「だからルルーシュのこと、譲らないって言ってんの。
お前が来てからルルーシュの隣に居られる時間が減ったんだよ。
だから、あいつの隣、俺がお前から奪っちゃうっていう宣戦布告。」
「…え? もう一度言ってくれるかな、聞き取れなかったんだよね。」


今度はいきなり笑顔になる。
いつもの嘘くさい笑顔じゃない。

目が…目が笑ってない。
これはさすがに怖い。

軍人とか訓練受けてない俺でも分かる。今、スザクが放っている殺気。


「ねえ、リヴァル? もう一度言ってくれるかな?」
「……す、スザク? 怖いよ?その顔怖いよ?」


どんどん迫ってくる。
怖い。やばい、調子に乗って言い過ぎた?俺言い過ぎた?


「…何をして居るんだ?お前達は。」


この声。
低めの、甘いアルト。

声のする方へ目を向けるといつものぴっしりとした学生服とは違う、私服のルルーシュ。

地獄に仏とはまさにこの事だろうか、日本のことわざらしいからよく分からないけど
多分そうなんだろうな。


「「ルルーシュ!?」」
「どうしたんだよ、お前今日休みなんじゃ…」
「ナナリーは? 平気なの?」


ハモってその名を呼び、後の台詞はばらばらに。
さっきまで胸ぐらをつかんでいたスザクの手もやっと離れる。


「あ、ああ ナナリーの熱も結構下がったし、今は寝てるから
少し様子を見に来たんだが…。何だ?ケンカでもしてたのか?」
「ううん、何でもないよ。ね、リヴァル?」


『何も話すな』。
暗く陰った翡翠の瞳がそう物語っている。怖い。


「そうそう、何でもない。
よっしゃ、せっかく来たんだからこれ、手伝えよな!」
「な、ちょっと待て 俺は本当に少し様子を見に来ただけで…っ」
「気にしない、気にしない! 来るタイミングが悪かったんだよ!」


ルルーシュの腕を引っ張って、強制的に椅子に座らせる。

その席はちゃっかり、俺の隣。

スザクが小さく「あっ」と声を上げたけど気にしない。


―今このときだけでも、こいつの隣には俺が居たいんだ。


気がつけば、空の朱は更に深くなっていた。



[end]





[2015.09.27 加筆修正]
再掲載にあたってタイトル変更しました。
(変更前【彼の隣は】→後【好敵手に告ぐ】)

リヴァルは作中最もいい奴だと思います。