男は困っていた。

天使の寝顔で、幸せそうに眠る美少年を目の前に。



とある男たちの煩悩




そもそも、ルルーシュ・ランペルージという生徒は前々から居眠りの多い生徒だった。

それが最近、輪にかけて多くなっている。
いつもの居眠りは,起きているときと同じ仏頂面だが今日は違った。


騒がない分、他の生徒の授業の妨げにはならないし、
彼の頭脳なら授業なんて聞かなくてもなんとかなるかもしれない。

それでも、居眠りというのはいけないことだ。
教師として起こさねばならない。


3度目ぐらいまでなら、まだ笑顔で見守ろう。

4度目ともなるとさすがにそうもいかない。

今日がその4度目、意を決して起こしに行った。

肩を揺すって、起きろと一言言うだけ。
そう、一言言うだけのはずだった。


ところが行ってみたらなんだ、この幸せそうな寝顔はッ!


いつも仏頂面で、笑うといえば皮肉げな笑みぐらいで楽しそうに笑うのは妹の前ぐらい。
微笑んでいなくても、その顔は常に憂いを帯びており、それが女子の心を射止めている。

その彼が、今自分の前で幸せそうに微笑みながら眠っている……。

ポーズがカモフラージュのための考えているふりなのが惜しいくらいに、綺麗な笑み。


いっそ起こさなくてもいいじゃないか、ちょっと肩をとんとんと叩いて
それで起きなかったら授業に戻ればいい。

……しかし、なんだ。

何なんだ、この気持ちは。

面と向かってこの寝顔を見た瞬間から、熱い何かがこみ上げてくる。

この胸の高鳴りは何なんだ。
きゅんとくるこの気持ちは!!

そしてさっきからよこしまなことを考えているのは何故だ。

肩を叩くだけで起きなかったらそのまま放置、授業が終わる頃には起きるだろうから
そのタイミングを見計らって、放課後生徒指導室に呼び出して、二人きりで。

生徒相手に何を考えているのかだなんて理性はどこかへ吹っ飛んだ。

……やるか。
別に、そんな、な。
公序良俗に反することをするわけでは…わけでは、ない。はずだ。
たぶん。恐らく。自信はないけど、たぶん。


そして、教師が恐る恐る肩を叩く手を伸ばしたその時だった。


「待ってください、先生。」
「…枢木か?どうした。」


びく、と肩が跳ね上がった。
それを気付かれまいと必死で平静を取り繕う。

がたんと音を立てて立ち上がったのは、枢木スザクだった。

ほんの少し幼さを残した顔立ち、強い意志を宿した翡翠の瞳。
軍人で高校生で、ルルーシュの親友(のはず)の枢木スザクだ。


「先生、そんな汚いことを考えながら僕のルルーシュにさわらないでください。」
「き、汚いこととは何だ!!」
「起こすふりして実は起こさないでそっとしておいて授業の後に生徒指導室に呼び出して
嫌がるルルーシュを無理矢理【自主規制】て【自主規制】た後、【自主規制】とか【自主規制】とか
するつもりなんでしょう!!」
「そんな、真っ昼間から自主規制しないといけないような言葉を連発するんじゃない!
私はそんな事考えていない、まったく何を言い出すんだいきなり!」
「別に他の生徒だったらそんなコトしても全然構いませんよ、損するのは先生だし
傷つくのはその生徒だ。でもルルーシュは別です、ルルーシュは僕の大切な人ですから
そんな、先生の汚れた手で【自主規制】されたくないんですよ。」
「……あのな。とりあえず落ち着け、枢木。【自主規制】なんてしないから。」


たぶん。
自信はないけど、たぶん。しない。

スザクと教師が大きな声でそんな口論をしているというのに、
渦中のルルーシュはというとまだ夢の中にいる。


ノートに板書していた生徒達ははらはらと事のいきさつを見守った。
中には書きながら見ている者まで居る、器用なものだ。


口論はどんどんエスカレートしてゆく。
教師の方まで自主規制の連発だ。


と、そんなとき。


ルルーシュの頭が、手からずり落ちた。

支えを失い、力の抜けた頭はそのまま机にぶつかった。
ごつんといっそ気持ちのいい音を立てて、思い切りぶつかった。


「痛っ」


その衝撃でやっとルルーシュが目を覚ました。

ぶつけた頭には小さなこぶが一つ。
ルルーシュはできたてほやほやのこぶを細く長い指で触れて、
「ああ少し腫れたな」とだけ呟いた。


さっきまで汚い言葉を連発していたスザクは途端に爽やかな笑顔で
「おはよう、ルルーシュ。」と言葉をかける。

教師の方までもが乗せられて「おはよう、ランペルージ。いい夢は見られたか?」と言い出す。

教師としては、思ったことをそのまま口にしただけで、
決して居眠りしていたルルーシュに対する皮肉も何も含まれていなかったのだが、
本人にはどうやら誤解されてしまったらしい。

ルルーシュは、はっとして顔色を青くした。

しかしそこはさすがといったところか、
すぐに冷静になって「おはようございます。」とだけ返した。
おまけに麗しい微笑みつき。
もちろん、演技だ。


その微笑みで先ほどまでのスザクとの汚いやりとりを見事に浄化し、
記憶から消し去ったところで教師はふと思い出したように
「あとで、生徒指導室に来るように。できれば1人で。」と短く告げて教壇に戻った。

教師が戻ったのを確認してからルルーシュは小さく舌打ちした。

スザクはというと、全力でルルーシュを守らなきゃとささやかな覚悟を決めていた。



[end]





[2015.09.28 加筆修正]

当時は【自主規制】の中身も考えていたようなんですが、
今読み返してもさっぱり思い出せません。何を考えてたんだろう。
書いた本人も思い出せないような自主規制ですが、
お好きないかがわしい言葉を当てはめてお楽しみ下さい。笑