変わらぬものは確かに在った



――夢を見る。


亜麻色の髪を二つに結い、車いすに座った、自分よりも小柄な少女が
見目通りの可愛らしい声で夢の中で自分の名を呼び、話しかけてくる。


『おにいさま』


夢の中の自分はそれに対し、柔らかく微笑みながら優しく答える。


『何だい、    』


名前を、呼んだのだろう。

けれど、少女の名前の部分だけは何かが邪魔するように遮られて
何も聞こえない。


『星……きれいですね』


少女の瞼は閉じられている。見えないのだろう。

それなのに、星がきれいだと自分に伝えてくる。


『……そうだね。星は、変わらない。それでいてすごくきれいだ』


夢の中の自分は、相変わらず柔らかく微笑んだまま答える。


『3人で見てるから、もっときれいに見えるだろ!』


今度は、栗色の癖毛の少年が翡翠の瞳を無邪気に輝かせながら明るく言う。
白い道着と紺色の袴。――日本人のようだ。


『そうだな。……あと何回、3人でこの星空を見られるんだろう』


夢の中の自分が、寂しげにぽつりと呟く。


『辛気くさい事言うなよ!! あと何回でも、ずっとずーっと……大人んなっても、
ずーっと3人で見ていようぜ』
『相変わらず楽天家だな、君は。
……けど、君のそういうところ、嫌いじゃない。   』


また……また、聞こえない。


少女と、自分と、少年と、3人で楽しそうに笑い合っている。

――そんな日々が、永遠だと信じて疑わない無垢な想いがそこにあった……。


そう、今の自分とはほど遠い無垢な想いが、確かにあったのだ。



「……ん……」


ゆっくりと重い瞼を上げる。

閉じられたカーテン越しに差し込む光はほんの少し暗い。

のそりと身体を起こし、暫く考え込んだ。


「(またあの夢か……毎夜毎夜、何なんだ。あの女の子も、少年も……)」


そして、あれは本当に自分なのかと疑う。


「(あの女の子……俺の事を、兄と呼んでいたな。それじゃああの子は俺の……?)」


記憶は曖昧だ。

しかし、それはないと自分に言い聞かせる。


自分の、実の兄弟は弟のロロひとりだけだと、強く言い聞かせる。
あの少年の事も――日本人の友人は居ないと、強く。


ベッドから降りて、窓に歩み寄りカーテンを勢いよく開く。

心地よい朝の光が意識を覚醒させる。


「……今日は、いい天気だな」


何か、いいことがありそうだ。
直感的に、ルルーシュはそれを感じた。


――それは確かにあったはずなのに、忘れ去られた《幸福》の時。――


(何か欠けている。けれど、それが何かは、わからない。)


それは《魔王》覚醒の朝。

新たなる革命の幕があがり、欠けていた何かが埋まる、少しだけ前のこと。



[end]





[2015.09.29 加筆修正]

これを書いたのはR2放送前。
記憶がないらしいぜ!という予備情報と、
ナナリーいなくなってなんか弟いるみたいだぜ!という知識で
書いたもの。

アキト見た後だと本当に思うんですけど、この頃のルルーシュって散々ですね。