あの日の夢は、まだ終焉らない



――夢を見た。


それは遠いようで最近のような、八年前の景色。

彼と、彼の妹と、まだ幼い自分と、三人で笑いあいながら見上げた夜空。


思えば、あの頃の彼の笑顔はどこかぎこちなかった。

一年前に再会したあの日の笑顔も、まだどこか作り物めいていたけれど、
八年前のあの日、周囲を疑う事しか知らなかった頃の笑顔はもっと硬かった。


『……あと何回、三人でこの星空を見られるんだろう』


年不相応に状況を理解しきれてしまう彼らしい一言だった。

あの頃、ブリタニア帝国と日本の関係は緊迫していて、
どんなに穏やかな時間も束の間のものでしかなかった。

特に、日本国首相の息子である自分とブリタニアの皇子である彼の関係は
いつまで続くかという保証は確かなものだとは言い難いものだった。


それでも、当時の自分は今に比べて随分楽天家で、心の何処かでは分かっていても
それを認めない節があって、無理して言ったのかそれとも本心でそう思っていたのか……
あるいは強い願望だったのかは分からないが、
悲しげな笑みを浮かべながらそんなことを言う彼に、
自分は今では考えられない程明るく笑って、肩を叩きながら言ったものだ。


『辛気くさい事言うなよ! あと何回でも、ずっとずーっと……大人んなっても、ずーっと
三人で見ていようぜ!』


そんな、自分の言葉に彼は一瞬驚いたように目を見開き、
それでもすぐ柔らかく微笑んで答えてくれた。


『相変わらず楽天家だな、君は。……けど、君のそういうところ、嫌いじゃないな。スザク』


彼と、彼の妹と、まだ幼かった自分。


続かぬ平穏を、続くように願いながらそれでもその時だけは、
ただその束の間の平穏をただ楽しんだ。

心から、笑いあいながら、無垢な願いをその胸に抱いて。


――今ではもう、過去の事で、ただの美しい思い出だけれど。


朝見た夢の事を、ふと思い出す。


(今思えば……あの頃が一番幸せだったな。ルルーシュと、ナナリーと、三人で……)


何も、その時を邪魔するものなどないかのような安らかな時間が
三人を包み込んでいた、あの時。


そんなことを思ってから、スザクはすっと瞳を閉ざして緩みかけた意識を引き締める。


「彼は……敵だ、倒すべき……敵」


微かに、自分に言い聞かせるように呟いた。


強い決意を陰った翡翠に宿し、スザクは歩を進めた。

靴音が高らかに響く。


――今思えば遠い日々、八年前、確かにそこにあった《幸せ》の時。――


それは世界の歯車が再び回り始める朝の事。
昇る朝日は、新たな舞台の幕を上げる。


(それは悲劇か、惨劇か。――喜劇になるかも、決めるは役者次第。)



[end]





[2015.09.29 加筆修正]

これを書いたのはR2放送前。
変わらぬものは〜のスザクサイドです。