ナイト・オブ・セブン、枢木スザクが再びアッシュフォード学園に通うことになった。 一年ほどの空白はあるが、彼は再び生徒会に所属する事になっている。 なんだかんだ言ってもかなり融通のきく場所ではあるし、何より以前からの居場所だ。 彼が帰ってくる事は学園の生徒、誰にとっても嬉しい事であったし、誇りであった。 「ルルーシュ」 クラブハウスのホールで盛大に行われているスザクの歓迎パーティーの最中、 その主役たる人物が、足りなくなった飲み物の補充をしていたルルーシュに声を掛けた。 テレビで時折映った時に着ていた白い騎士服とは違う、自分たちと同じで、 そして懐かしいアッシュフォードの学生服を着たスザク。 以前よりもさらに鍛えられているな――ふと、そんなことを思う。 封じられていた記憶を取り戻し、彼にした事された事も全て思い出したが、 不思議と憎悪や敵意といったモノは感じなかった。 むしろ懐かしく喜ばしいとすら思っている。 その感情のままの表情で微笑みながら、ルルーシュは手を止めて振り返る。 「なんだ、スザク?」 「少し、君と話がしたい。付き合ってもらってもいいかい?」 「もちろん。……少し待っててくれ、すぐに行く」 「ああ」 スザクは短くそう返すと、一瞬だけ笑ってホールの扉に向かって歩き出した。 ルルーシュはそれを見送ってから再び動かし、飲み物の入った瓶を全てのテーブルに 規則正しく並べてからすぐにスザクを追ってホールを出た。 *** クラブハウスを出て校舎に向かう。 二人で話す場所といえば、屋上だろう。前もそうだった。 「(嬉しいとは思っている。だが……)」 スザクがナイト・オブ・ラウンズになった以上、今まで以上に彼は敵となった。 彼は今でも自分を憎んでいるだろう。 最愛の主君であったユーフェミアを虐殺者にした挙げ句、 その命を奪った自分を、彼が憎まないはずがない。 憎しみという言葉すらぬるいかもしれない。 一年前のあの日、遺跡で互いに銃を向け合った。 あの時響いた銃声は命こそ奪わなかったが、確かに壊れたものはあるのだ。 一度壊れてしまったそれは、二度と蘇る事のないものだ。 「(スザク……お前は、再び俺を……)」 ――友と呼んでくれるのか? それとも、憎き仇として今日この日に命を奪うのか。 彼の目的が何であろうと、彼の伝える言葉が何であろうと、構わない。 ただ呼ばれたから話をしに行く、ただそれだけだ。 校舎に入り、長い廊下を進み、いくつかの踊り場を通り過ぎて階段を上る。 鉄製の扉を押すと校内にはなかった外の風が頬を撫でた。 少しばかり風が強い。 揺れる髪を煩わしく思い、片手で押さえながら柵にもたれかかるスザクの傍へと行く。 「待たせたな」 「いや、思っていたよりは速かった。君は相変わらず、どんな作業も効率がいいね」 スザクは振り返らずに答えた。 ルルーシュはその言葉にふっと笑いながらスザクの隣で、柵に肘をついた。 「そうでもないさ。……それで、話って?」 柵にもたれかかっていたスザクはルルーシュの方へ向き直り、 真摯な眼差しでルルーシュのアメジストの瞳をまっすぐに見据えて聞いた。 「……ひとつ聞いていいかな」 「?」 「君は、ルルーシュ? それとも、」 聞き覚えのある質問に一瞬驚いて目を見開くが、それは一瞬の事で、ルルーシュは 柔らかく微笑みながら答えた。 「……ルルーシュだよ。俺は、お前のよく知っているルルーシュだ」 「そうか。……なら、俺も同じだ。君の友達の、枢木スザクだ」 ルルーシュの言葉にスザクは嬉しそうに笑って言った。 その笑顔は、最近よく見かけた強ばった表情とは打って変わって、 本当にルルーシュのよく知る枢木スザクのものだった。 それを見てルルーシュも思わず嬉しくなる。 「それで……それを確認した上で、どうするんだ? ナイト・オブ・セブンではない枢木スザクは」 「別に、ただ確かめたかっただけだよ。 君は……今でもゼロなのか、それとも今この時はルルーシュなのか。 ……ルルーシュは、何があったとしても俺にとっては大切な親友だから」 「ふふ、すごい矛盾だな。ゼロを殺す事は、俺を殺す事に繋がると思うが?」 「……それでも、戦場では容赦はしないよ。ルルーシュは大切だけど、ゼロは別だからね」 「お手柔らかに。……まあ、それは俺も同じだがな。枢木スザクは親友でも、 ナイト・オブ・セブンは敵に他ならない」 互いに、不敵な笑みを浮かべながら言葉を交わした。 ふと、下の方から声が聞こえた。 「兄さーん! ミレイさんたちが探してるよー!」 「ロロか。……すまないな、スザク。探してるらしいから戻るよ」 「ああ、じゃあ俺も戻ろうかな。俺のためのパーティーらしいから」 「そうだぞ、ちゃんと楽しめよ」 「……一緒に、戻ろうかルルーシュ」 「……そう、だな」 ――「ねえ、あなたはゼロ? それとも……」 スザク、お前が今日俺にした質問は、あの日お前の主君が、俺の異母妹が、 無邪気に投げかけたものだったんだよ。お前たちは、やはり似ているな―― [end] |