君はとても優しくて、残酷だよ。 いつもいつも…精一杯に愛情を注ぐくせに、 精一杯注がれた愛情は受け取らないんだから。 それでも、僕はそんな君を愛していた。 空は残酷なほどきれいに澄み渡っていた。 青い空には雲一つ無く、季節は冬だというのに太陽の熱がさんさんと降り注ぐ。 昨日、うっすらと降り積もった雪も朝のうちにすっかり溶けてしまった。 「……君は…いつだってそうだったね。」 相手の事ばかり想って、自分の事を大切にしようとしないんだから。 だからって、何も殺されようとしているときまで僕のことを想っていること無かったのに。 君の優しさは、僕の中に後悔を作り出す。 ふと、自身の両手を見つめる。 あの日、銃を握って、大切な“彼”を殺した手。 血に汚れた、醜い手。 遠いあの日には父を殺した。 まだ鮮明に思い出せるあの日には、親友を手にかけた。 いっそ切り落としてしまいたい、忌々しい手。 この手がなければ、彼も死なずに済んだかもしれない。 ……違うな、と思う。 この手がなければ、じゃない。 “俺”が彼を止める事が出来れば、 彼の真意に気付く事が出来れば。 彼は今も、隣で微笑っていたはずなんだ。 この石の下、冷たくなって眠る事はなかったはずなんだ。 「…ごめん。ごめんね、ルルーシュ。僕がもっと君を見てあげられれば…。 もっと、君の傍にいてあげられたら、君を守る事が出来たかもしれない…。」 なんであんな事を言ったんだろう。 なんであんな事をしたんだろう。 後悔ばかりが、浮かび上がる。 「でも、君も酷いね…。君の所に逝くことを赦してくれないだなんて。 ……でも、それも当然かもな。今の俺には、君の傍にいる資格はないんだから。」 そう。 あんな事を言って、君を傷つけた俺に、傍にいる資格なんてない。 君が一番傷つくと心のどこかで知りながら、君の存在を否定した。 懺悔が無理なのは自分の方。 父親を殺したあの日の事も、親友を…恋人を殺したあの日の事も。 いつだって“後悔”して引きずって、怯えて、言い訳して。 「…君なら…君なら,どうするのかな。大切な人をその手で殺めてしまったら。 君は、どうしたのかな。ユフィやクロヴィス殿下を手にかけた時に……。」 それをきいて、自分はどうするつもりなんだろうな。 君と同じように、なんて出来るはずないのにな。ルルーシュ。 どちらにしろ、もう聞くことは叶わない。 翡翠の双眼から、堪えきれない想いが溢れ出した。 「ねえ、ルルーシュ。もう手遅れかもしれないけど… 一言だけ、言わせてもらってもいいかな。」 “君の事、本当に大好きだった。” 吐く息が白い。 「……じゃあ、僕、もう行くね。また、来るから。」 小さな花束を供えて、踵を返す。 これ以上、ココにいたら本当に泣き出してしまいそうだから。 スザクが供えた花の隣には、同じく小さな花束がひとつ。 たぶん“彼女”が置いていったものだろう。 ふと。 空を見上げた。 空は、どこまでも青く、どこまでも澄んでいた。 雲一つない、穏やかな空がどこまでも続いていた。 ―…ねえ,ルルーシュ。空って、独りで見るには広すぎるよ。 ずっと君の隣で、一緒に見ていたかったな。― [end] |