なあ、ルルーシュ。

お前は、嘘つきだよ。でも。

そんなお前を私は愛していたんだ。



―独りの空―




冷たい風が吹く。

空を舞う雪は、まるで空の色をそのまま降らせたように白く儚い。
見上げた空は、冬特有の冷たい白が際立っていた。


黒に近い紺のコートに落ちた雪は、溶ける事もなく降り積もる。

鮮やかなライトグリーンの長い髪に、雪の白はとてもよく似合った。

空も、雪も、吐く息も白い。


少女は、琥珀色の瞳を哀しげに細めながら空から視線をずらした。

今日、ここに来た目的は“彼”に会うこと。


「……なぁ、ルルーシュ。お前は、私に言ったよな」


黒い墓に、今日の雪のような白で刻まれた、“Lelouch Lamperouge”の名。

C.C.はその場にしゃがみ込み、墓石を優しく撫でた。
心なしか,先ほどよりも穏やかな瞳。


「…願いを、叶えると。契約を、果たすと…」


嘘つきめ、と呟く。


「あの時、言っていたよな。…ずっと一緒にいてくれると…
私が魔女なら、お前は魔王になればいいと…」


今でも鮮明に思い出せる。

ここではない別の空間で,確かに交わした約束。


もう、守られる事はないけれど。


「…嘘つきめ。お前はいつだって嘘ばかりだ」


ルルーシュ自身、自嘲げに言っていたこともある。
自分は、全てが嘘ばかりなのだと。


それでも、全てが嘘だなんてことは無かった。


一度懐に入れた者へ対する優しさも、愛情も本物だった。
それを傷つけた者に対する憎しみも、憤りも本物だった。


最終的には、その“本物”の想いを注ぎ続けてきた相手に殺されたのにも関わらず
あいつは最期までそれを貫いた。

甘さとも言える優しさを、最期の最期まで注ぎ続けた。


「……あいつは、あの男は、それに気付く事もなくお前を否定したというのに…。
どうしてお前は、そうも優しいんだ」


きっと彼は、C.C.にも同じくらいの優しさを注いでくれていたはず。


どんなに悪態をつこうとも、冷たい事を言おうとも、自分を突き放さなかったのがその証拠。

本当に嫌っていたなら、何をどうしてでも追い出しただろう。
彼の頭脳ならそれも可能だったはず。

自惚れかもしれない。

けれど、それをしなかったのはきっと……。


「どうして私はこんな身体なんだろうな。お前の傍にいる事も叶わず、お前の後を追うことも…。」


叶わない。


ふと、温かい何かが頬を伝った。

地に落ちたそれは、うっすらと降り積もった雪をじんわりと溶かす。
黒い墓石を撫でる手に、気付かぬうちに力を込めていた。


「……ずっと、ずっとお前の傍にいたかったよ…ルルーシュ。
初めてだよ、こんな気持ちは…」


初めて、、ではないかもしれない。

ずっとずっと忘れていただけの、孤独な時の流れの中に置き忘れただけかもしれない。

温かく、熱く、そして時に冷たい想い。


そう。
人は、この感情を―愛情、と呼んだ。


いつもいつも彼の中に満ちあふれていたあの感情が今、確かに自分の中にある。


「…独りで見る空というのは―…こんなにも、寂しいものなんだな…」


 ―いつまでもいつまでも、お前と一緒に見ていたかったよ。―



[end]





[2015.09.29 加筆修正]

これと孤独の空、一期最終回後だったんですね。
二期かと思ってた………道理でおかしいと思った……。