誰がそれを不幸と呼べるのか。



罪滅ぼしの夢の先




蜃気楼から降りてきたゼロとC.C.の姿に、普段の彼らの姿を知る者は言葉を失った。


機体から出る時も怯えるようにしてゼロにしがみついているC.C.。

いつも不遜で、偉そうで、尊大で、高飛車だった彼女が今は弱々しくゼロに縋っている。
ゼロもC.C.を支えるようにして歩いている。


一歩、また一歩と自分たちに近づく度にC.C.は怖れるように肩を震わせていた。


「あの……っ…ここ、は…」
「…心配することはないよ。みんな、優しい。それに…俺がいる。だから安心して…」
「…はい……」


そのやりとりにも違和感を覚えた。


普段の彼らの会話とはあまりに違いすぎるのだ。

C.C.の我が儘にゼロが小言を言って、C.C.がまたへりくつをこねて、
ゼロが呆れながらも最終的には折れる。

そんな会話が彼らの日常だったはずなのに。


何だ、これは?


「…通してもらえないか。今は…彼女をあまり人の目に晒す訳にはいかない。
お前達でも分かるだろう、いつもと変わっていることくらい…だから、すまない」
「兄さ…」


何があったの、と問おうとするロロの声をゼロは冷たく遮った。


「ロロ。……今は、言えない。分かってくれ」
「…わかった……けど」
「ああ。いずれきちんと話そう」


それだけ言い残して、ゼロはC.C.を支えたまま騎士団の中にある私室に入っていった。



***



「…ご主人様?」
「頼むからその呼び方はやめてくれ……ルルーシュと呼んでくれないか」
「ですが」
「あー……すぐには難しいだろうが、その敬語も……いや、無理しなくていい」
「?」
「別に俺は、お前を奴隷として使うつもりはない。ただ傍にいて欲しいだけだ」
「……? よく、分かりませんけど」
「何もしなくていいよ、と言って居るんだ。これも君にはまだ難しいかも知れないけれど、
いずれ慣れてくれ。…命令、と言ったら聞いてくれるのか?」
「? …はい」


調子が狂う。


C.C.と会話していてルルーシュは思った。

今までの不遜な態度にはものすごく苛々していたが、今としてみればあの頃のC.C.は
まだ幸せだったように思える。
……これも、勝手な妄想かもしれないけど。

少なくともルルーシュの目には自由奔放に堂々と生きていたあの頃のC.C.は楽しそうに見えた。

なじるだけの玉城とのやりとりも、いじり回しているカレンとのやりとりも、
そう例えば、からかいおもちゃにするだけの自分とのやりとりも、
すべて今となれば幸せだったように思える。


失ってから気付くんだ、いつもいつも。


まさかC.C.に対してまで同じ様な過ちを犯すとは思っても見なかった。

失う事などないと思っていたから。

ずっと傍にいるのが当たり前で、ずっと変わらずにある関係が当たり前だと思っていたから。
C.C.も変わらない。
きっと、自分も変わらないで、一緒に。


「あの……」


どさっと腰を下ろしていたソファの横から、慌てるような声が聞こえてくる。


目を向けてみれば、そこには両の手を太腿の前で合わせ、少し前傾の姿勢で、
困惑したように眉を下げ潤んだ瞳でじっと自分を見ているC.C.……否、
C.C."だった"彼女がいる。


「……どうか、したか?」
「お疲れでしたら、お茶でもお淹れします」
「いや、いいよ。君は休んでいて」
「で、ですがっ……私は……」
「……それじゃあ、主として命じようかな。ここでゆっくり休んでいる事。
お茶は俺が淹れてくるよ」
「……はい」


渋々でも了承してくれたらしいC.C.はぽふんと、緊張したようにルルーシュが座っていた
ソファに腰を下ろした。


――ほんの数日前までは、ここでごろごろ寝転がってピザを頬張っていたのに。


今では本当にいいのか、と戸惑い緊張しながら落ち着かない様子で縮こまって座っている。


なぜ、こうなってしまったのか。


原因もよくわからないまま、ルルーシュはただ悲しくなった。


『C.C.! お前、ベッドでものを食べるなと何度言えば……』
『あんまり怒っていると禿げるぞ、ルルーシュ?』
『誰のせいだと思っている、誰のせいだと!』
『さあ、私には皆目検討もつかないな』
『お前だよ、C.C.』
『なんだそうだったのか。…しかしそれは無理な相談というものだ』
『何故だ』
『此処以外のどこで食事を取れと?』
『ダイニングに行くとかあるだろう、そうでなくてもベッドはやめてくれベッドは!』
『……まったく、仕方のない奴だな』

『………変わらない時間などないのだから、カリカリしないで少しでも今を楽しめばいいものを。
お前は本当に損な生き方をしているな、ルルーシュ』

『何か言ったか?』
『いや、何も?』


『後悔だけは、するなよ』


――後悔とは、罪なのでしょうかという愚かな問の答えを漸く見つけた。――


――後悔するなと、言ってくれたのは誰だったか。――



生きる事を願い力を求めた事は罪なのでしょうか。
だとしたらどのように償えばよいのでしょうか。

愛されたいと願い幸せを求める事は罪なのでしょうか。
だとしたら人は何を思い何のために生きればよいのでしょうか。


そのすべての罪を購う時、その先に待つのは何なのでしょうか。


《嗚呼、いっそ 全てが長い長い悪夢であったならばよかったのに》



[end]





[2008.07.21 著]
[2015.09.29 加筆修正]

TURN15派生、捏造なCルルC。

これを公開したとき、男性の読者さんから
「C.C.に萌えました」と感想を頂いたのを覚えています。
男性から、というか、性別を明らかにして送られた感想はあまりなかったので
すごく印象に残っているのです。ちょっと自信になりました。笑