愚かな君の傲慢な願いの先は




路上に突然現れたゼロ。
死んだはずの男、日本人の救世主。

腰に下げた剣。

かつてのゼロとは全く違う俊敏な動きで、男はルルーシュに迫ってきた。

ルルーシュを護ろうとしたジェレミアの肩をも飛び越えて、
抜いた剣をルルーシュに向けてくる。


――これでいい。これで、世界は……。


「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。君を死なせはしない」
「っ!?」


ルルーシュは目を見開いた。

聞こえてきた声が予想していたモノと違ったからだ。


「君がここでゼロに殺され世界は平和になる。それが君のシナリオなのだろう、
それは知っている。だが…」
「…ライ……? なぜお前がっ……」
「だが、そのシナリオは僕が…私が認めない!」
「な……」


力強い声で、振り上げていた剣を下げられた。

仮面が邪魔で顔は見えないけれど、きっと怒ってるのだろう。

自分の無茶にか。
自分の愚かしさにか。
それとも甘さにか。

それはわからないが、彼をここまで怒っているのは珍しい。


一方的に言ってから、ゼロに扮したライはルルーシュを背に庇うようにして
民衆の方を向いた。

ライの後ろからジェレミアを見てみると、驚くのではなく満足げに笑っていた。

どういうことだ。
解らないのは自分だけなのか。


「……今この場にいる者全てに願う。この男を悪と記憶し、今この場で見た真実を忘れ…。
皇帝ルルーシュは私、ゼロが殺したと記憶せよ!」


かつてのゼロがそうしたように、同じ様な動きで流麗に腕を振る。

マイクを通して拡張された声はそのまま、命令という名の願いを載せられて
その声を聴く者全てに絶対遵守の言葉として刻まれる。


高らかに逆らえない命令を下したライは、ルルーシュの方へ振り返り仮面を外した。


「ライ……どういうつもりだ」
「それはこっちのセリフだ、ルルーシュ。君の死んだ世界で幸せになれない人間が
いるってことをまったく考えてない、君は馬鹿だよ」
「なっ…それでも、俺が死ぬ事で」
「ここにいる者たちの記憶の中で君は死ぬ、それで十分だ。僕らはもうこれ以上、
君の我が儘に付き合ってやるつもりはない」
「我が儘だと? それこそこっちのセリフだ!」
「いい加減にしてくれ。僕やC.C.…それにスザクが今までどれだけ君の自己犠牲を見て
傷ついてきたかとか、止めるのを我慢してきたかとかそういうの一切考えてないんだろう、
いや、気付いてすらいないんじゃないのか? あまつさえ死ぬだと?
ふざけるな、君が死んだらC.C.の願いはどうなる。
私との契約はどうなる。スザクとの約束も果たしきれない」
「………」
「忘れるな、君に生きていて欲しい人間がいるということを」


"ゼロ"はそのまま、呆然とするルルーシュをマントの中に抱いて人々のざわめきを
気にする事もなく走り去っていった。


「どうか幸せに。ルルーシュ様、ライ様」


一人の男がぽつりと呟いたその言葉に、気付く者はなかった。







「まったく、無茶が過ぎるぞルルーシュ。私との約束など忘れていたんじゃないのか、
無責任な奴め」
「僕に殺せっていうのもだいぶ酷いよね、君を殺したいって思ってたのは君の本心を知る前であって、
今はもうそんなこと思っても居ないのにさ。
大体、ライと入れ替われないで僕がゼロとして君を殺してたら、
僕ずーっとあの仮面被ってゼロとして生きなきゃいけなかったんだろ?
いくらナナリーがいたって嫌だよそんなの」
「…す、すまない。しかしあの時お前だって同意し、」
「あそこで反論したって君聞かないだろ。
ていうかライじゃないと君を説得できなかった気がする。
入れ替わってよかったね、ライ」
「ああ、まったくだ。
ルルーシュがこんなに馬鹿な男だとは思わなかったよ、他人の愛情に疎いのは知っていたが」
「それはお前も大概だがな」


抱きかかえられて連れてこられた先は、誰も居ないとても静かな場所だった。


家もなく、ただ木材などだけが集められていて、きっと自分が戻ってきてから
ライとスザクの体力組で家を造るつもりなんだろう。…手作りで。


待っていたのは、共犯者と騎士。

二人とも安心したような苦笑いで迎えてくれた。
ぽつりぽつりと小言を漏らしながら、受け入れてくれた。


「私はお前を不幸にするためにギアスを与えたワケじゃない。
たとえ命を代償に世界の平和を創る事がお前の幸せだとしても私はそれを認めない、
覚えておけ」
「傲慢な女だな、相変わらず」
「私はC.C.だからな。…それと、お前には言われたくない。
この世界の憎悪は何をしたって一人の人間が背負いきれるほど甘くなど無いぞ?
現にお前が何をしたって真実を知る私たちはお前を憎めてなどいなかった」
「…つめが甘かったな、俺も」


思わず、笑みがこぼれた。


嗚呼、こんな方法で。こんな簡単なやり方で。


たとえどんなに小さくとも優しい世界は創れたんだ。



[end]

(Thanks for CODE GEASS,Thanks for Lelouch.)






[2008.10.01 著]
[2015.09.30 加筆修正]

行政特区の悲劇を防いでくれたライなら、
ゼロレクイエムくらいぶち壊してくれるよね?という夢。

その上、私はライとスザクをTO●IOさんか何かと同じだと思っているらしい。
元王族の男に家を建てさせるって。なんと荒唐無稽な。