your happy or our happy?




華やかな庭園。
咲き誇る和花の香りを微かに感じながら、スザクは空を見上げたまま瞳を閉じた。


仮面越しに見る空は、青くはなかった。


ルルーシュは、ゼロはいつもあんな空を見ていたのかな。

変声機越しに外に流れる声は、自分の口調なのにルルーシュの声で、
一言話す度彼の面影が心を掠めて辛い。


けれどこれが自分の背負う罪で責任なのだと、彼の残したものなのだと思うと
苦痛にはならなかった。


ただ、辛いのは……。


「会いたいよ。…ルルーシュ……逢いたい……」


悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを討ったゼロがこんなことを言うのは誰にも聞かれてはならない。
事情を知るナナリー以外には、決して。


ゼロの仮面は重かった。重すぎた。


こんなものを、罪と一緒にあの細すぎる身体で背負ってきたのか、ルルーシュは。


今になるまで気づけずにひたすら彼を責め続けてきた自分に後悔する。
ああ、どうしてもっとはやく気付なかった、と。


ふと、一人きりの筈の庭園にもう独り、別の人間の気配を感じて

スザクは空から視線を下げ、精神を研ぎ澄ませた。


知っている、この気配を。

短い間だけど、一緒にいた。もう一人の共犯者。
人間とは少し違う気配だった。


「ルルーシュに逢いたいか、枢木」


ああ、やっぱり。


声を聴いて、スザクは仮面の中でくすりと笑った。


『…生きていたんだね、C.C.』
「誰が聞いているかわからないぞ? ゼロのままでいろ」
『そうだな。…今までどこにいた、C.C.?』
「少し旅をしてきた。お前が心配で思わず戻ってきてしまったよ、ゼロ」
『心配? お前がか』


彼女の笑みは相変わらずだった。

どこか挑発的で余裕があって、見た目と不相応な威厳があって。
見下されているような気がしてきて、時々いらつく。


「そうとも。今のお前がまともにナナリーを手伝えるのかと思って」
『私を馬鹿にしているのか』
「馬鹿にしている。そろそろ、ルルーシュ不足だろう」
『っ…』
「今だって、逢いたいとか言ってたじゃないか」
『いつからそこにいたんだ……』
「ずっと。とでも言っておこうかな」 『ずっと…だと? お前、今の自分の立場を理解しているのか』
「……なんだか、貴様にお前と呼ばれると腹が立つ。名前で呼べ」
『名前は知らない』
「C.C.でいい。私の本名を知るのはルルーシュだけだからな」
『そうなのか。……で、C.C.は私が困っているのを見て笑いに来たのか』
「まさか。そんなに暇じゃないさ。ちょっと渡したいモノがあってな」
『渡したいもの……?』


そういって、C.C.は笑みを深くした。


どこから出したのか、いくつかの小さい封筒と携帯式の録音機器。


「ルルーシュだ」
『……は?』
「だから、これがルルーシュだ。写真と声。
お前の知らないシークレットショットまである。
お前の事だから、ルルーシュ不足が酷くなるとただでさえ低機能な思考が
さらに駄目になるのではと思ってな、わざわざ持ってきた」
『それはどうも。…だが、ルルーシュの記録なら…』
「残っては居ないだろう。今のあいつは世界の悪だ、面影を残すわけにはいかない」
『そういえばそうだったな……。ナナリーも写真とかを隠してた』


C.C.に渡された封筒と携帯機器を片手で受け取る。
この中にルルーシュが居るのか、いや、本物ではないけれど、その面影がある。


そのことが何故か無性に嬉しかった。


嗚呼、ルルーシュ。もう君は消えてしまったと思ってた。


「おいっ C.C.……っ」
『!?』
「なんだ、追いつかれてしまったか。頑張ったな、魔王サマ。…だがお前、
ここで姿をさらしていいのか? 死んだ事になってるのに」
「それどころじゃな…っスザクに渡すって言ってた写真の中にアレも入ってるだろう!!」
「入れたとも。サービスだよ、サービス」
「ふざけるなっ!! スザク、返してくれないかそ……」
『ルルーシュ!?』


目の前にいたのは、間違いなくルルーシュだった。


さらさらの黒い髪、どんな宝玉より綺麗なアメシストの瞳、白い肌。
走ってきたせいで上気してあかい頬。


「ばっ、声がでか……」
『ルルーシュ、ルルーシュ、ルルーシュなんだねっ!? なんで、なんで
生きてるのに…生きてるのに言ってくれなかったの、連絡してくれなかったの!?』
「おま…とりあえず仮面とれ、俺の声で甘えられると気持ち悪い」
『あ、そうか…ごめん』


言われて、ようやく暑苦しい仮面を外した。
この仮面は嫌いだったはずなのに、思わず外すのを忘れてしまった。


「ルルーシュ…本物なんだね」
「…当たり前だ。で、いいからその封筒かえ」
「逢いたかった……逢いたかったよ、ルルーシュ……」
「むぐっ!?」


返事を遮って思い切り、ルルーシュの細い身体を抱きしめた。
ああ、久しぶりの体温、久しぶりの温もり。
間違いない、ルルーシュだ、本物だ、俺の大切な……。


「ば、スザク、くるし……っ」
「逢いたかったんだ、ずっと。約束だったとはいえ、ずっと後悔してたんだ。
君の事刺したこと。あんな約束、いっそ破ってしまえばよかったね」
「……ばか。それじゃ意味ないだろ、何のために俺があそこまで悪になったと思ってる」
「うん、わかってる。わかってるけど…。 君が居ない世界なんて、君が幸せになれない世界なんていらないんだ。
俺には意味ないよ、そんなもの」
「…スザク」
「……このまま……」
「……」
「このまま、君を抱きしめたまま、どこかへ行ってしまいたいよ……。ルルーシュ」
「…駄目だ。それは」
「……嫌だよ。もう君の願いなんて聞いてやらない」
「…スザク……それじゃあ意味が……」
「写真も声も要らない。俺が欲しいのは本物のルルーシュだけだ」
「………でも」
「ナナリー、あれで結構しっかりしてるんだよ、君の妹なんだもの。それに
中華連邦の星刻さんや神楽耶だっている。僕がサポートしなくたってきっと」
「大丈夫なわけないだろう。ゼロは必要なんだよ」
「……じゃあ君が傍に居てよ」
「無茶言うな」

「いや、できると思うぞ? ほら、お前が別の仮面用意して。頭すっぽりじゃなくても
目が隠せればそれでいいんじゃないのか?」
「は? C.C.まで何い、」
「元々この男に政治は向いてない。お前のサポートも必要だろう?」
「いや……それは無理で」
「出来る」
「………」
「そうだよ、できるよ、やろうルルーシュ!! ほら連れてってあげる、みんなに
改めて挨拶しなきゃ!!」
「ほわぁ!? ばか、降ろせスザク!!」
「スザクじゃないもーんゼロだもん!!」
「じゃあゼロ、降ろせ!!」
「嫌だユアマジェスティー!」
「ワケ解らん返事するなっ」


どんな形でもいいや、滅茶苦茶でも無茶苦茶でも

君が傍にいれば 僕幸せ!!


(世界平和? 知ったことか、君の居ない世界に平和なんてあり得ない!)



[end]






[2008.10.01 著]
[2015.09.30 加筆修正]

ファイルを開いてクラッとしました。
何だこれ。
加筆修正とかそんなの放棄して再掲載自体やめようかとも思いました。

ですがそれを言ったら他の作品も大差ないと思い、
ちょっと頑張ってみることにしました。

正直今すごく恥ずかしいです。穴掘って埋まりたい。

何にせよ、ここまでの勢いは今の私にはないのでそれはそれで貴重だなと思います。