空は晴れていた。
雲もない。
陽射しも温かだ。

青々と茂る木々が風に揺れて、葉の擦れ合う音がする。

細めの枝から飛び立つ小鳥、鮮やかな緑の芝生と色とりどりの花。

窓から差し込む光も温かい。


そんなさわやかな日に、少年はその日何度目か分からないため息を零した。



依存症



「……はぁ…」

「…いい加減にしろスザク。今日だけで何回目だと思ってる」


書類に書き込んでいた手を止め、瞳を伏せてでかでかとため息を吐く親友を見て
ルルーシュは呆れたように言った。


生徒会室には今、スザクとルルーシュの二人しかいない。

スザクが陰鬱な空気を漂わすと、ルルーシュはその直撃を一人で受けなければならない。

その空気を壊してくれそうな人物といえば二人程いるが、残念ながらどちらも不在だ。

ルルーシュの言葉に、スザクは恨めしげな視線を向けながら
テンションの低さをそのまま音にしたような声で聞く。


「なにが」

「ため息だよ。最近多くないか」

「そうかな」

「そうだよ。何だ、何かあったのか? また学園内で嫌がらせでも……」

「ううん、前と変わらない。あったとしても犯人は闇に葬ってるから大丈夫」

「それは大丈夫なのか……。じゃあ、軍で何か?
最近はユーフェミア皇女殿下の騎士にもなったし、風当たりが強くてもおかしくないが」

「確かにうるさい人もいるけど作戦中に事故に見せかけたりとかして潰してるから
それも大丈夫。……まあ、ある意味軍のことかもしれないなぁ……」


さらりと爆弾発言をする。これは相当重症か。


「お前……潰してるって……」

「だって鬱陶しいんだよ、それに最近苛々してるし何か物足りないし」

「物足りない……。ああ、そういうことか」

「? 分かったの、ルルーシュ」

「アレだろ。ライが」

「そうなんだよ!!」


ライの名が出た途端、少しだけ嬉しそうな瞳をしてスザクは俯いていた顔を上げる。

さすがにそこまでの反応をするとは思っていなかったルルーシュは
少しだけ呆けてスザクを見る。


「彼さ、実は大分前から親衛隊に配属替えされれてて、前にも増して会う機会減ってるんだよね」

「親衛隊!?」
「そう。僕がユーフェミア様の騎士になるより前にね。総督に気に入られたみたい」

「あのコーネリア総督が……凄いな。というか、あいつも技術部じゃなかったのか」

「うん。うちの上司が彼の事気に入っちゃって、ナイトメアにも乗ってたよ。
ナリタでも一緒に闘った。その時に総督を救出したのが彼で……
あの時ライがいなかったら、僕も騎士団に潰されたかも知れないし総督も……
それくらいすごかったんだ。機体を操る能力だけじゃなく、判断力も……。
だからじゃないかな、総督が彼を気に入ったの」

「……そうか…」


ち、あの時邪魔してきたのはスザクだけじゃなかったのか。

舌打ちをしそうになるのを必死に堪える。


「ここだけの話、ユーフェミア様の騎士候補に彼もいたんだ。
しかもコーネリア殿下の推薦で。
ユーフェミア様もかなり迷ったらしいんだけど……二人揃って僕にした」

「ふたり?」

「ライに説得されたようなものだよ。ユフィも最初からそのつもりだったみたいだけど……。
でも、ひょっとしたら彼が騎士になってたかもしれない」

「……それで?お前が落ち込んでるのはそんな事じゃないだろ」

「そうなんだよ!! 彼、親衛隊だって言っただろ?
だから僕よりずっと忙しいんだよ。前にも増して学校には来れなくなったし、
所属部署が違うから会う機会も減ったし、来るとしたらクラブ……
えと、これは彼の騎乗してるナイトメアでランスロットをベースとした機体なんだけど、
そのクラブが損傷したときくらいで……彼、判断力在るし操縦うまいしで、
あまり機体も損傷しないんだよ。これは喜ぶべき事なんだろうけど、
そうなると全然会えなくなって!!
しかもコーネリア殿下のお気に入りだからさ、
結構呼び出されたりとかして……ギルフォード卿にまで気に入られてるんだよ!?
暇が全然ないんだ、彼!!」

「………重症だな」

「なにが?」

「お前が。どおりで遠い目してライライうるさいワケだ」

「う……だってさ……。なんか、ずっと一緒にいたようなものだから……」

「馬鹿だな、お前は」

「ひどっ!」

「忙しくたって、向こうも頑張ってるんだろ? お前と会う時間作るために。
なあ、ライ」

「……へ?」


ルルーシュの言葉に、思わず間抜けな声を漏らす。
ルルーシュが生徒会室の入口をちらりと見たのに気付き、
スザクもそちらへ視線を向けてみる。


そこにいたのは軍で見慣れた士官服とは違う、黒の学生服を着たライ。


呆けて見てくるスザクを見てライは驚いたような呆れたよう表情と声で言う。


「スザク……そんなに落ち込んでいたのか? 僕と逢う時間が減ったくらいで」

「くらいって……! ああ、いいやもう……」


ぎゅぅと、座った姿勢のまま、ライをしがみつくように抱きしめる。


「す、スザク?」

「……僕も、頑張って時間作るから」


(だってもう僕、君に依存しちゃってるんだから。君が居ないともうダメなんだ。)


「まったく…世話の焼ける奴らだ。」



[end]






[2015.10.02 加筆修正]

LOST COLORSは軍人篇が一番好きです。

ブリタニア軍の士官服が大好きでな!
親衛隊ルートはギルフォードさんとの絡みが多いのと、
大人に可愛がられてるライが可愛くてたまらんです。
ダールトンさんが亡くなったときは
「(ライの)お父さぁぁぁん!」と泣きそうになりました。