悪夢 /Cルル





ねがいごと /ナナルル









































夜中にふと目覚めたC.C.は、隣で静かな寝息を立てている少年に目を向けた。


黒いしなやかな髪、今は閉ざされた瞼の下に隠れた美しいアメジストの瞳。

絹のようになめらかな白い肌。

そしてそれら全てがバランス良く置かれた、整った顔立ち。


その整った顔は今、どこか苦しげな表情を浮かべているようにすら見える。


「……ルルーシュ…。」



【悪夢】



少し苦しげな表情。眉間に寄せられた皺。


きっと授業中の居眠りでも同じような顔をしているのだろう。

跡がつかないかどうか、心配になってしまう。


(どんな夢を、見て居るんだろう。)


妹のことか? 違う。

ならもう少しは 穏やかな表情をしていてもいい筈だ。


ならばあいつの―…枢木のことか?
 

今まで、何一つ 見返りを求めることなく 無理に詮索することもなく
ただただ その男のためだけに注いできた愛情に気付くこともなく
今まで、何度も 差し出した手を振り払い、なおかつ 否定すらしてきた男。

それどころか あの男は世間の汚れも知らぬ無知な…純粋なだけの皇女の手を取った。
まるで、彼女だけが 自分を認めてくれたとでも思っているような行動。
そしてそれは、あの男自身も気付いていない彼への否定。


そんな事まで考えると、C.C.までも眉間に皺を寄せてしまう。
もちろん、それは 今自分の横で眠っているルルーシュとは違う意味で。
ルルーシュの思いはおそらく 不安や、彼のための心配。
C.C.の思いは、憤り。


「……リ、ィ…。」

小さなつぶやきに、思わず目を向けた時。

彼の頬を伝う一筋の涙。

彼の表情は先ほどよりもずっとずっと哀しそうで苦しそうで。
まるで、全てを失ってしまったような喪失感すら浮かぶ表情で。


「……。大丈夫だ…。
私はずっとお前の傍にいるよ。たとえ世界がお前を見捨てても
私は絶対に、お前を見捨てたりはしない。
だから……。だからせめて今だけでも安心しておやすみ…。」


自分自身、驚くほど柔らかく微笑みながら紡いだ、優しい言葉。


―そう。世界が裏切っても私だけはお前の傍にいる。裏切ったりはしない。―


まるで悪夢から守るためのおまじないのように。


彼女は彼の閉ざされた瞼に優しい口づけを落とした。



[end]











































ねがいごと

くしゃり。

折りかけた赤い折り紙が小さな白い手の中でつぶされる。


「まあ…V.V.さん、また失敗してしまったのですか?」

「……ナナリーはすごいね。こんなにたくさんの綺麗な鶴…。」

「お前が不器用すぎるだけだろう、V.V.」


V.V.は自分の手の中でつぶれた赤い紙をじっと見つめた後に
ナナリーの手の中にある綺麗な折り鶴と、
C.C.が手に持っている折りかけの鶴と見比べた。

そして、今度は3人の真ん中にあるこれまた綺麗に作られた折り鶴の山に目を向ける。


「なんでこんなにたくさん折ってるの?」

「…この間、咲世子さんが教えてくださったんです。
鶴を千羽折ると 願い事が叶うって。」

「ナナリーには叶えたい願い事があるのか?」


そこへふと、淹れたての温かい紅茶の乗ったトレーを持った
ルルーシュがやってきてナナリーに尋ねた。


「はい」


にこ、と微笑みながらナナリーは答える。


「その願い事は?」とルルーシュが聞こうと思ったその時、
C.C.がルルーシュの服の端をくい、と引っ張った。

一体なんなのかとC.C.を見たルルーシュに対し、C.C.は
「腹が減った。昼食はまだか?」と聞く。


「…今から作るよ。何がいい?」


最後の部分だけはナナリーに向けて、心なしか優しい声色で尋ねる。


「お兄様の作ったものなら何でもいいです。」

「そうか。じゃあV.V.はなにか食べたいものあるか?」

「…じゃあオムライス。」

「わかった。 C.C.、今日はもうピザ頼むなよ。」

「はいはい、分かったよ オカアサン。」


最後の一言に苛立ちを覚えたもののとりあえず今は昼食を作ることにして
ルルーシュは紅茶だけをおいてエプロンを着けながら台所へ向かった。


「ナナリーの願い事はなんなの?」


さっきルルーシュが聞き損ねた質問。

今度はV.V.が聞く。


「私の願い事は…やさしい世界でありますように。」


(そう、兄様が幸せでいられるような、優しい世界。)



[end]






[2015.10.03 加筆修正]