ツルバキア ・・・スザルル・スザユフィ・ルルシャリ フォックスフェイス ・・・スザルル ※亡国のアキト2章のネタバレ含みます。 オダマキ ・・・スザルル ※亡国のアキト2章のネタバレ含みます。 |
大きな窓から射し込む朝の光、微睡みの中目を覚ますと隣には愛しい人の穏やかな寝顔。 覚えている血塗れの顔でも血の気の引いた死に顔でもない、生きた人間の安らいだ顔。 「ユフィ、朝だよ。起きて」 「……ん……すざく…?」 寝惚けた声で自分を呼ぶ。 愛しい。 まだまだ眠たそうな彼女の桃色の髪をそっと撫でて、無防備な頬に口づける。 「……もう、朝から悪戯っ子ですね」 「ふふ、早く起きれるようにおまじないだよ」 「仕返しです、えい」 ほのかに朱のさした顔で、可愛らしくスザクのいたずらを叱る。 身体を起こして、スザクの頬にキスを返してはにかんだように笑う。 「おはようございます、スザク」 「おはよう、ユフィ」 「……朝食の準備、もうすぐ出来るぞ。早く顔洗ってこい、バカふたり」 「バカって。酷いなぁ、ルルーシュ」 「おはよう、ルルーシュ。今日も早いのね」 「シャーリーももう起きてるよ。ユフィ、ついでにロロを起こしてきてもらえるか?」 「ええ、顔を洗う前にロロの可愛い寝顔を堪能してくるわ」 「……早く行け、ばか」 拗ねたような声音でユフィを促す。 素っ気ない口振りだが、その響きはどこか甘い。 なんだかんだと妹に甘いのは相変わらずだ。 変わらないなあ、と幸福感に満たされて微笑むスザクに、 ルルーシュが難しい顔を向けた。 「どうしたんだい?」 「……お前は、それでいいのか?」 「何が」 「いつまでも俺たちに囚われていていいのか」 「……なんのこと?」 端麗な顔が、苦しげに歪む。 絞り出すような声で、ルルーシュが続ける。 「俺たちはもういない、死んだ存在だ……だがお前は違う」 「……っ死ん……なに、言って」 「この夢のなかは幸せかもしれない、全ての悲劇はなかったことになって俺達は生きている。 しかし、それは夢だ」 偽りだ。 「なあ、スザク。こんなことではいけないんだよ。 生きているうちから死者に焦がれて夢に籠るなんて、許されない」 「……やめてよ、ルルーシュ」 気づいていた。気づいていたけど見えないフリをした。 だって幸せだったから。 彼の言う通り。 何もかもが願ったままで、ユフィとルルーシュは殺しあってなんていなくて、 スザクとルルーシュは憎み合わず、シャーリーも生きてルルーシュの隣にいて。 自分達を狂わせた悲劇は最初からなかったことにして。 幸せだった。 こんな未来が欲しかった。 願っていた未来のなかで微睡んでいたかった。 でも、それじゃダメだと言う。 嗚呼、どうして。 僕は生きているのだろう。 目の前の、かつて自身の手で貫いた主君であり幼馴染みである彼の顔は切なく苦しい。 目を覚ませといいながら覚まして欲しくない、そんな葛藤を抱えているのだろう。 いくら気丈に振る舞っても彼は寂しがりやだ。 「俺もユフィも、お前を縛ってしまっている。 このままではいけないとわかりながら……手放せない」 「……手放さないでよ」 「だから、それではいけないんだ」 「いけなくないよ。手放されたら行けなくなるだろ」 「……スザク、」 まっすぐにルルーシュを見据える。 覚悟は決めたんだ。もう君たちを苦しめたくはない。 「俺は俺のなすべきことをなして、いつか君たちのもとにいくよ。 どうかその時まで、俺が道を違わないように導いて欲しい。 そして最後は、君たちのもとへ迷わないように……」 「……ああ、わかった」 ふっ、と安堵して笑う彼をみて、ああよかった、そう思う。 いつか君達が笑って出迎えてくれるまで、俺は生き続ける。 ユフィが遺してくれた優しさとシャーリーが教えてくれた強さ、 そして君との約束を抱いて、歩き続ける。 [end]
13.9.10 著
ツルバキア:小さな背信、残り香 |
ずっと君を、殺したかった。 「お前が俺を殺せ」 命じる君はどこまでも凛として潔く、気高く、 幾万幾億もの人間を殺戮し踏みしだいてきた者とは思えぬほど清廉だった。 その手がどれだけの血潮にまみれているのか、 愛しい妹を抱きしめることも許されないほどに穢れてなお、君は気高い。 あの日からずっと君を憎んでいる。 許しはしない、許してほしいとも思わない。 俺は君の敵で、君は彼女の仇だ。 君は、世界の敵だ。 「なあ、スザク。俺は幸せだよ……今、幸せに向かっていると言う実感がある。 すべての願いが叶う。幸せだ」 「……ならば、俺は不幸だな。お前の願いを叶えなければならない」 「ああ、そうだ、お前は幸せにはなれない……俺がさせない」 俺はお前が、嫌いだからな。 そう言って、ルルーシュは凄絶に笑んだ。 美しい、と思った。 世界を呪い、俺を憎む男の笑みが、氷のように冷たく美しい。 美しすぎる顏の上に、その瞳だけが悲しそうな、愛しそうな色を隠して、 その不均衡が人を惑わす。 俺もまた、惑わされる。 俺の手でもたらされる最期の瞬間、その存在は完成し世界を惑わすと知りながら、 彼の差し出す剣を受けとる。 嗚呼、本当に――忌々しい。 [end]
13.9.19 著
フォックスフェイス:偽りの言葉、私の想い |
忘れ去られた屈辱がある。 「しかしお前は本当にひどいやつだよな」 「お前に言われたくない」 「かつての親友を、最も傷つけられると確信した手段で蹂躙するなんて」 思い出しただけでヘドが出るな、と言う彼の呪われた眼はどこを目指しているのだろう。 その記憶はルルーシュの屈辱そのもので、スザクの罪だ。 ルルーシュを断罪するための、スザクの業だ。 忘れてはならないのだ。 自分がかつてこの男を踏みにじったことを。 ルルーシュがユフィを含む数多の死への責任を心臓に刻み付けて生きているように、 スザクはルルーシュの心を殺したことを忘れては生きられない。 許されない。 「……ジュリアス・キングスレイ、だったか……無駄に立派な名だ」 「……あのとき、お目付け役として同行して……改めて、君と言う人間が恐ろしくなった」 「俺じゃない、ジュリアスだろう」 「いや、君だ。君自身だよ。己の能力を過信して、 立案した作戦に絶対の自信をもって……戦士を駒のように扱う」 「は、笑わせる。作戦に自信を持つのは当たり前だろうが、 自信のない作戦の決行に生身の人間を投入するわけにはいかないんだからな」 心底不愉快そうに言う。 それは作戦の立案、指揮の能力を憎き祖国のために使わされたことを思い出してなのか、 それとも別の理由なのか、スザクには推し測りかねた。 「ハンニバルの亡霊だったか、あのEUの戦士」 「……え? ……ああ…」 「ミカエル騎士団の総帥がやけに執着していた……全く苦労させられたよ」 「どっちに?」 「両方だ。あの亡霊の戦い方、ああいうのを相手にするのは苦手なんだよ」 予想を裏切るから。 向けられた視線の意味を察して思わず笑う。 「あのときのすべてを忘れ、餌として呑気に学生生活を送り…… そして今は、自らブリタニアに身を置いている」 「でも、それも復讐だ。君にとっては。違うか?」 「違わない。これは世界への復讐だよ、俺を傷つけた世界へのな」 この男はまったく、息をするように嘘をつく。 忘れ去られていた屈辱は、解き放たれた今、業火となってすべてを焼き尽くす。 彼自身でさえも、その炎から逃れられない。 そして俺は、その炎に焼き尽くされることこそを望むのだ。 [end]
13.9.20 著
オダマキ:愚か、たわけ者 |